[少女匣]

 目が覚めると、わたしは匣の中に居た。

 まず眼界に入った、わたしの理想どおりのお洋服を着ている、淡いピンクの壁を背にして立つトルソォにしばらく見蕩れる。やや光沢のある生地で作られた、純白のLolitaのドレス。広がったスカートと袖は繊細なレェスで飾られ、胸元には大きなリボンがついている。さらにところどころ縫いつけられたビィズが、このすてきなドレスをよりいっそうきらきらさせていた。

 やっと視線を少し横に滑らせると、次は華奢なデザインのアイアンラックに載っている美少女の頭に、ドレスと合わせるのであろう円形のヘッドドレスが被せてあるのが目に入る。大輪の白薔薇を囲むリバーレェス。ついに達せた匣の中に感激し、そして心底安堵して、わたしは起こした躰を再び小花柄のベッドへ沈めた。ああ、よく見たら今着ているネグリジェも白くて、ふわふわしていて、可愛い。

「気に入った?」

 すると、突然枕元から玲瓏な少年の聲が響いた。顔を向ける。少年はベッドの縁に腰かけ、躰を捻ってわたしを見つめ、優美に微笑んでいた。人間ではありえないほどの美貌。

「うん」
「ドレス、着てみなよ」

 少年の両腕のない躰がふわりと浮き、わたしを誘うようにトルソォの前で浮遊する。裸躰の少年には、性器もなかった。わたしはベッドから出て、ドレスに近寄る。

「鏡はないの?」
「そんなもの、ないよ」

 トルソォから脱がせたドレスはまだよしとして、少女の頭から外したヘッドドレスはつけるのに手間取ってしまう。わたしの周りをふわふわ飛んでいる少年には手がないから、手伝ってもらうことはできない。でも、不便だと思わなかった。むしろ少年のパーツの欠けた躰には安心を覚える。なんとかヘッドドレスのリボンを顎の下で結んだ。

「とっても可愛いよ」
「確認できないのが残念」
「君は、ほら、あの少女と同じ顔をしているんだよ」

 アイアンラックの上、縦ロォルの髪を垂らし、長い睫毛を伏せた美しい少女の頭。鏡がないのが不便だという気持ちは、消えた。

 それからそのまま、わたしは少年と楽しく過ごした。お腹も空かないし、喉も渇かないけど、どこからか現れる紅茶と甘いお菓子を摂取して。けれど一回、妙な事件が起きた。匣の中に現れるはずのないものが、アイアンラックに載っていた。

 説明したくないくらい、恐ろしくグロテスクな形をした針を持つ時計が喋った。

「外ノ君ハ、××××××××××?」

 わたしは悲鳴をあげる。

「いけない! まだこんなものが残っていたのか」

 少年が時計を蹴飛ばす。時計は空中で四散して、溶けるよう消えた。



 END.



←前次→

[一覧に戻る]

- XRIA -